旧八幡第四発電所導水隧道


和歌山県


 


                                                   

             2016年2月訪問


 2月最終土曜日の夜、和歌山県有田川町の道の駅明恵ふるさと館にて居酒屋を敢行しました。
 この寒空でなんてキチガイな…と思いつつやってきたんですが、幸いその日は無風。底冷えもなくなんとか
開催することができました。
 参加者はひろきさん、きょくちょ〜さん、Yori-yanさん、おろろんさん、私の計5名。よ〜集まって下さいました。


 翌朝。ひろきさんネタ振りの物件を探索するのが今回オフの主目的でございます。
 集まっていただいたのは、昨夜居酒屋のメンバーの中できょくちょ〜さんは別の用事で来られませんでしたが、
それ以外の私含めた4名。に加え、ピカさん、アルプさん夫妻、タイムリーなことにこの探索先を先行調査されていた
mt.tellさん、当HPに参加表明を頂いていた地元の初顔合わせの恋さんの計8名という久々の大所帯となりました。
 皆様ありがとうございます。
 
 さて、今回の探索先は有田川町遠井(トイ)地区にある旧水力発電所遺構です。
 ネットでも詳細なレポが殆どないレア中のレア物件でございます。ひろきさんはたまたま国道480号線から見えた
そうです。mt.tellさんは、ダムのスペシャリストですので、自ずと知っていたようです。
 道沿いに止めるので車両を3台に絞り、到着!

 地図ではここになります。
 ここにかつて堰堤があり、水力発電所の
取水堰堤があったそうです。
 因みに今回は発電所方面には行っており
ません。

 ひろきさんのブログからお借りした写真です。
 国道から見える廃景です。何かしらの構造物が見えています。左上の車道にある車両群が我々の車でございます。

 これもひろきさんのブログからお借りしました。
 ズームしてみると…切り石積み堰堤の根元に…確かに穴が見える!これは気になります。
 しかし、よ〜こんなの見つけはったな…

 またまたひろきさんブログから拝借です。
 先程の堰堤の対岸物件です。流筏路というんでしょうか。しっかりと遺されています。

 で、今回の目的は、堰堤に開いた穴と、mt.tellさんが発見の導水隧道の調査の2点ということになります。
 対岸の堰堤には容易にはいくことができないです。

 国道から堰堤直下を見下ろします。結構傾斜がきついな…
 しかしながらmt.tellさんは「いけますよ」とさらり。えええ…。
 先陣を切って降りていきます。それに続き、みんなも降りていきます。逞しいなあ。

 堰堤上に降りてきました。大きな穴が開いています。
 どうやらこれが取水堰堤の取り入れ口のようです。

 上からは降りれないので、側面に廻ってきました。ここが取水口みたいです。

 左手に堰堤跡が。往時は堰堤として機能していたようですが、廃止後に爆破されたようです。
 mt.tellさんから頂いた有田川町の広報誌によると、1907年(明治40年)9月、御前七郎右衛門・上山市郎兵衛等によって
設立された南海水力電気株式会社の給電によって、有田郡内の電気の供給が始まったそうです。
 同社は、1910年(明治43年)3月、松原に修理川第一発電所、1919年(大正8年)に川口へ第二発電所、1922年(大正
12年)には松原に堰堤式の第三発電所を設けたそうです。
 で、この遠井の発電所は
1928年(昭和3年)に現在の遠井キャンプ場の400mほど上流に建設された第四発電所。
 広報誌にはありませんが
八幡第四発電所という名前だったそうです。しかしこの場所、取水堰堤ではないんですか!?
 広報誌の書き方だと、ここに発電所があったみたいな記述になっています。
 ともあれこの発電所は昭和28年の7・18水害(九度山発電所もこれで壊滅)、その直後の台風13号の被害により壊滅
し、またその後下流の二川ダム建設工事に伴い、石張りの堰堤も破壊されたそうです。

 詳細は分かりかねますので、取り敢えず現状調査を。
 先程の取水口と思われるコンクリアーチから内部に入ります。埋まってますなあ。

 2層構造になっていたのでしょうか。下部は埋まってます。ので、上の方に…

 内部は瓦礫の山です。
 取水の水槽だと思うんですがねえ… 

 何か所かある穴の内の一つ。小さくダストシュートのように口を開けています。 

 降りたら(というか落ちたらw)戻れない感じです。
 反対側から行けるかな?

 で、この後、メインの導水隧道にアタックしたんですが、それは後ほど。
 その前にこの堰堤設備を見てまわります。 

 取水口の脇を回り込み、堰堤の方に向かいます。
 寸断された石積み(石張りだそうですが)堰堤。これ以上崩れないようにするためか、寸断部分にコンクリ補強を入れて
います。

 取水口側を向くと、ここにも穴が。先程の取水口の内部に繋がってます。
 木製ゲートが残ってますねえ。

 もう一か所。こちらは完全に埋まっているようです。

 さあ!これが八幡第四発電所取水堰堤の遺構です!
 いやあ、間近で見られるとは…素晴らしい。 

 堰堤に穴が二つ。ゲートのある方が国道から見え、ひろきさんが発見しました。

 ここがその堰堤上部です。ゲートのバルブや下流側への階段がありますね。

 バルブと対岸の堰堤跡。

 階段を降りるとゲートなしのコンクリアーチがあります。
 ものすごい中途半端な場所に開口して
います。堰堤と高さが同じなので、何らかの
用水取り入れ口?とか思ったりしますが、
この先に用水を必要とするような田畑も
ありません。

 下部のゲートとの位置関係です。

 下流側から今回の目的の一つ、謎の穴を見ます。
 ???左側にも穴、開いてますねえ。

 おおおお…素晴らしい!
 石張りということですが、内部は床面を含めて総切石造りです。
 左側の穴は鋭角に堰堤に向かっています。

 いいですねえ!堰堤の斜面に合わせて、坑門が傾斜しています。
 迫石7個の欠円アーチですな。
 内部へはここからは微妙に距離があって入れません。ので上流側に回り込みます。
 上流側の坑口です。
 素晴らしいフォルムですねえ!
 アーチ部は切石3個分窪んだ場所にあり
ます。
 隅石のように角を守る石積みが秀逸です。

 内部です。見事な切石欠円アーチ!

 下流側から。
 非常に綺麗ですねえ。床面は流水によって丸くなったんでしょうか。

 ゲート越しに上流側を見ます。目線の先の擁壁は取水の水槽部分です。

 先程下流側から見ましたが、今度は内部から。
 あの右側の穴にも入りたいんですが、これも絶妙に距離が離れています。
 が、ここは何とか入り込みます。

 おおお…鋭角に取水口に向かっています。
 床面、側壁は切石積み。アーチは…補修されているのか、よくわかりませんねえ。

 身を屈めつつ進むと、明かりが見えてきました。

 2層に分かれています。
 真っ直ぐは埋まってしまっております。上に開いている穴は…
   ああ、これか!
 取水槽から落ちたら上がれないと言って
いたあの穴です。
 繋がりましたねえ。
 下からでも登るのは至難です。
 埋まっている方向。
 取水槽の下部に繋がっていたようです。
 余水吐きですな。

 余水はここから「ぺっ」と放り出されます。
 面白いですねえ。

 さて、一通り見て回りました。
 いよいよの噂の導水路に潜入しますか!
 
 取水の水槽に戻ってきました。
 この瓦礫の山のどこにそんな穴が開いてるんでしょうか…。
 実はその穴はこのようになっておりました。

 おおおお…よくこれだけの隙間があったものです。
 瓦礫がうず高く積もっており、普通ならとっくに閉塞していると思われますが…
 コンクリのアーチに迫石調、要石調の装飾が施してあります。
 そして!この導水隧道の呑口坑門にはもう一ついいものが。

 これです!なんと扁額がありました。

 
寒潭洞 高彦題 とあります。

 中国の古典の一つに菜根潭(サイコンタン)というのがあります。その中の一節に「寒潭」という言葉が出てくるそうです。
 また、「潭」とは水を深く湛えた所。ふち、という意味があります。
 以上のことから、冷たい淵にある隧道、みたいな意味合いでしょうか。

 高彦さんとはどなたなんでしょうか。下部の「印」にヒントがあるかもしれません。
 読める方、是非ご教授下さい。

 はみ男さんからご教授頂きました!

  
高 士 工
 彦 大 学
 印 藤 博


 
工学博士 大藤高彦 印
 これが正解と思われます!
 大藤氏は生年が不明ですが、没年は1943年(昭和18年)、京大教授工学博士だったそうです。
 愛媛県宇和島市の上下水道の水源地調査並びに指導をしたという経歴がネット上で確認できました。

 
 それでは内部に入ってみましょう。降りるのは結構大変です。滑り落ちるよな感じで降ります。
 ってか、戻る時、登れる???

 とかいいつつ、降りてきました。
 広い!まさかこんな空間が残されているとは露ほども感じませんでしたが…
 コンクリートの隧道が先に続いています。

 振り返ると、埋まってしまわない理由が分かりました。
 どうやら廃止後に一度はコンクリで蓋をしてしまったようです。
 それがこうやって入洞できるようになったのは、何か理由があったのでしょうか。

 洞内には不規則に土砂が堆積しており、その都度水たまりができています。

 配線を通していたんでしょうか。木製の遺構が状態良く残っています。

 垂れ下がるワイヤー、数匹のこうもりさん。
 洞内はやや左に折れていきます。

 この辺は結構深く土砂が堆積しています。

 と、思えば土砂が一気になくなり、水たまりが。この水はどこからくるんでしょうねえ。

 また土砂が増えます。なんなんでしょうねえ。

 またこれです。しかも微妙に深くなってきています。
 mt.tellさんが一度出先をうかがってくれていたお陰で、ウェーダーがいることは分かっていましたので、その点は
問題ありません。

 こうもりさんが大量に冬眠中です。コキクガシラコウモリと思われます。

 いやあ、長い…どこまで続いてるんでしょうか…
 しかもこう土砂の量が上下すると歩きにくくてしょうがありません。
 当方のウェーダーはフェルトソールですんで、泥濘に非常に弱いんです。ふう。

 おおお…今度は水たまりが長そうです。

 長いな…隧道はまた左に折れているようですが、そこまでずっと水溜りです。
 そして、結構深い…
 こんな感じです。
 膝ぐらいあります。ウェーダー大正解です。

 ざぶ…ざぶ…ざぶ…
 凄まじい長さです。一体どこまで続くんだ…きりのいいところが見つかりません。

 また陸地が現れました。
 ずっと同じ景色ばかりで気がおかしくなりそうです。

 もうかれこれ1kmは歩いたんではないでしょうか。
 そろそろ撤退も考え始めます。が、キリのいいネタが見つかりません。困りましたな…

 また左に折れるようです。うーむ…

 レンズが曇ってきていますが、気付かず…
 発狂しそうになりながらだらだらと距離を伸ばします。
 と…先に明かり!?

 おおおお!!!なんか梯子がある!!!
 やっとセーブポイントの登場か!?

 隧道は相変わらず続いていますが、兎にも角にも脱出口っぽい!
 ここをセーブポイントにして脱出できるかな?

 ぐはあ…!
 鉄板で思いっきり蓋をされておるようです。ぐぬぬぬぬ…あれでは出られそうにありません。
 光はコンクリートに開けられた穴から漏れるものでした。うーむ…

 ………無情にも無機質なアーチがまた奥へと続いています。
 ここにセーブポイントがあるってことは、ここからの延長も今歩いてきた分あるのでは…2人してげんなり…

 まっっっっすぐっっっ!
 これは萎えます…

 本気で撤退を考えないといけません。それでなくても他のメンバーをかなり待たしています。
 よし!あの曲がった先の直線を確認したら引き返そう…
 そう決心し、歩を進めます。すると…!

 おおおおおお!!!!!!!

 ひ、光が!中央に燦然と輝く!!!
 あれはセーブポイントではなく、まさに栄光の吐口ではないのか!!!!?
 二人のテンションが一気にマックスになります。粘ってよかった!!!

 距離はかなりありますが、光があるのとないのとでは気分は全然違います。
 ルンルン気分で歩を進めます。

 土砂が極限まで減っていきます。こちら側は本来の隧道の姿を見せてくれます。

 …水が吐口に向けて流れていってます。
 が、吐口は多少なりとも埋まっているように見えます。この水はどこにいくの???

 坑口は間違いなく埋没しています。しかし水は相変わらず坑口方向に流れていきます。
 これは珍しいですな。どういうことなんでしょう???

 土砂は外から流入しています。
 そこには水がなく、水の行方は…

 まさかの床下へ…
 そりゃあ、水が溜まるはずがありません。なんと、側壁から床下にかけて亀裂が入り、水はそこから外に逃れて
いるのでした。土砂も少しづつ水と一緒に流れ出ているんでしょう。
 しかし、こんな亀裂の入り方がありますか?この隧道は一体どういう状態に陥っているのでしょうか。

 その答えはすぐ…。吐口の坑門付近がどえらいことになっています。
 ってか、ここが吐口坑門なのかも怪しくなってきました。

 凄まじい亀裂が走っています。これはやばい…
 亀裂から、竹の根でしょうか、生えてきています。

 最も酷い、もはや亀裂とは呼べない崩壊寸前の隧道箇所。
 なぜこのような酷い状態になったんでしょうか。これは外に出てみないと分かりません。

 無事脱出!
 そこには吐口坑門を証明する装飾が。

 迫石、しかも江戸切り風に加工されたコンクリアーチです。
 これは見事な装飾ですな。

 ばっくりと割れてしまっております。相当な圧力が坑門にかかっているようです。
 実はこの坑門数m下は有田川。急傾斜に口を開けているため、隧道下部の土砂が少しずつ流失しているのでは
ないでしょうか。そのため、川側にこの隧道は傾きつつある、と…
 しかし、周辺は竹林と化しています。流れ込んだ土砂にも竹が生えており、暫くは地質に変化がないのかな、とも
思えます。

 …とは言え、この状態は酷い…
 近々逝ってしまいそうな雰囲気はたっぷりあります。なんせ床にも穴が開いて、水が流れてますからね…

 どっちを向いて撮影したのかわからない写真ですが、基本周囲はこんな感じです。川に向いてますかね?
 どちらにしても、とてもこんな所に吐口坑門があるとは思えません。
 因みにここから先は開渠の痕跡が一切なく、斜面の竹林が続くのみです。暫く同じ高さを進めば次の隧道が現れる
かもしれませんが、これ以上メンバーを待たせるわけにはいきません。
 以降はmt.tellさんの追調査を待つことに致します。

 引き返すなんて選択肢は2人とも皆無。
 上空に車道があることは分かっていたので竹林を這いあがり、ガレガレの斜面も駆け上がります。

 無事生還!
 長かった…往復ぢゃなくて良かった…
 脱出した先は、駐車場所から相当離れてしまいました。おろろんさんに連絡を取り、回収をお願いしました。
 因みに写真は西側を向いており、駐車場所とは逆を向いてます。目線の先の黄色看板から折れてすぐ、沼隧道
のある場所です。
 ストリートビューで同じ景色の場所です→コチラ

 直線距離で寒潭洞の延長を計測してみると、およそ1.32km!
 とんでもない延長の水路隧道でした。因みに途中にあった階段付きのエスケープポイントの場所は分かりません。
 発電所の位置や寒潭洞からの導水路の現状は、mt.tellさんの追調査に期待することにし、今回はここまで!